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何もかも辛くて、 僕はそこから逃げ出した。 もう痛い思いも、 苦しい思いもしたくない。 もう、あの場所には戻りたくないと本気で思った。 だって 僕さえいなければ、 みんな幸せになれるんだ。 僕さえ…いなければ、 きっとみんな笑える…。 そう信じて、 臆病な僕は 『僕』に逃げ込んだ。 怖くて死ぬことすら出来ずに────。 もう二度と現実など見たくないと、 頑なに視界を閉ざしていた僕の元に、 ある日突然、彼は現れた。 恐ろしいほどの存在感で、 お爺様のように怒っていたから、 やっぱり彼も僕が疎ましいのだと思っていたのに、 彼は妙に切なげに僕を見つめる。 …訳がわからない。 彼は毎日 僕に話しかけ、 返事をしない僕を 黙って抱きしめた。 怒りも憎しみも、そこにはなかった。 僕の欲しかった世界がそこにあるように見えて、 僕の、声が聞きたいと彼は言った。 僕の、笑顔が見たいと…。 僕から見れば叶わないことなどないように見える、 何でも持っているように見える人が、 そんな些細なことを叶えられずに苦悩する姿は、 僕の深く堕ちた心に ゆっくり沁み入って、 もし彼の願いを叶えたら、 彼は どんな顔をするんだろう? 思ったら僕の心の中に温かいものが広がって、 体がふわりと、飛んでいけそうな心地がした。 思い切って声を出して、 何度も教えられた名前を呼ぶと、 彼はひどく驚いたような怖い顔をしたから…、 また傷つけた、と怖くなって、 『哀しいの?』と聞いたら、 彼は 『違う』 と、 『お前が 話してくれることはないと、 思っていたから、嬉しいんだ。 ありがとう』 と、 泣いて…崩れるように僕を抱きしめた。 だから────、 僕は彼の背中にゆっくり手をのばした。 今、僕は彼の腕の中、 穏やかな時間をすごしている。 温かい思いで、満たされて…。 幸せってこういうことをいうのだろうか? 胸の中が一杯で、詰まって、 けれど 僕はもう苦しくはないんだ。 だって振り返らなくても いつでも貴方が、 ────そこにいるから……。 |
THE END [Thank you for having associated for a long time!] Back Home |